読書記録 『うつ・パニックは「鉄」不足が原因だった』 ~『鉄』の役割と重要性についてわかる本

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高タンパク+低糖質+メガビタミンを主とした栄養療法『藤川理論/藤川メソッド』の提唱者である藤川徳美先生は、精神科医としての実績やいくつもの症例を元とし、『医者に頼らず自身で健康を保つ方法』を、論文でなく書籍として、世の中に広めています。

そのうちの一つ、『うつ・パニックは「鉄」不足が原因だった』は、2017年に出版された藤川理論最初期の書籍です。

『うつ・パニック~』の目次と簡単な内容

目次を見出しとし、読み終えたうえで章ごとに内容についてさらっと書き出しています。あくまで個人の捉え方なのでおかしい箇所もあるかもしれません。

第一章 日本女性の8割は鉄が空っぽだったーーうつ・パニック障害は「鉄・タンパク不足」が原因

鉄不足の基準の一つとなるフェリチン値について。日本人女性のほとんどが、貯蔵鉄とも言えるフェリチンの値が低下している状態である。特に閉経していない女性は深刻な鉄不足であることが多い。

赤血球を合成する以外の、体内における鉄分の役割についても。

第二章 「鉄・タンパク不足」を伴う 不安・うつ・パニック障害治療の実際

鉄・タンパク不足を原因とする様々な症例と改善の記録。

第三章 鉄ーー地球・生命にとって特別な元素

地球上における『鉄』という元素の重要性について。

第四章 エネルギー代謝と鉄ーーあらゆる病に鉄不足が関わる理由

鉄を含めた様々な栄養素が体内に与える影響。ヒトが生きるために行われるエネルギー代謝のしくみについて。

エネルギー代謝を効率化するためには『鉄+高タンパク食+低糖質』が重要。真逆の『鉄を含むミネラル不足+タンパク不足+糖質過多』だと、エネルギーの枯渇が起こり、様々な体調不良を引き起こす。

第五章 医師はなぜ栄養について知らないのかーー治療の旧パラダイムから新パラダイムへ

現在の医学教育での問題点の提唱と、それを改善するための意見。『藤川栄養理論』を論文化せず書籍として出した理由について。

第六章 【実践編】鉄吸収を良くする 「低糖質+高タンパク食」とサプリメント

鉄をより効率よく体内へ取り入れるための、サプリメントを含めた食生活に関するアドバイス。低糖質・高タンパクの勧め。

内容に関しての補足

症例は(目次で数えるだけでも)29件あり、第二章だけでなく、それぞれの章で関連情報として紹介されています。

『うつ・パニック~』を読んでの感想

『うつ・パニックは「鉄」不足が原因だった』で印象的だった箇所

体内に鉄が増えると心身ともに調子が上向く

本書において、鉄不足が解消された際の効果として、以下のような例が挙げられていました。

  • 感情が安定して思考が柔軟になる
  • 頭の回転が速くなり、体がキビキビと動くようになる
  • ストレスに強くなる
  • 慢性病やがんなどの身体疾患の改善や予防にも効果がある

これを見るに、鉄不足の解消は心身ともに良い影響があるのがわかります。

『うつ・パニックは「鉄」不足が原因だった』というタイトルだけを見ると、精神面の改善を目的としているように見えますが、それ以外が目的でも試してみる理由になるということです。

鉄不足の基準となるフェリチン値

貧血を判断するための指標として一般的に知られている『ヘモグロビン』とは別に、鉄不足の指標となる『フェリチン』値があります。

フェリチンとは内部に鉄を蓄えることができるタンパク質のことです。ヘモグロビン値が正常であっても、フェリチン値が低下していれば『隠れ貧血』となり、鉄不足の症状が出てしまいます。

驚いたことに、15~50歳、つまりは閉経していない日本人女性の8割はフェリチン値が低く、鉄不足に陥ってしまっているそうです。しかも、一般的にフェリチン値は軽視されており、深刻な鉄不足でも見落とされてしまうとのことでした。

質的な栄養失調~糖質過多の栄養不足

食べ物にあふれている日本でも、質的な栄養失調の人が多く存在しています。

質的な栄養失調』は、生きるエネルギーを作るために必要なタンパク質、ビタミン、ミネラル全体が不足してしまっている状態です。一例として、簡単に採れるパンやおにぎり、カップラーメンなど、炭水化物(糖質)ばかりの食事を続けることで、他の必要な栄養素を得られなくなることで発生します。

これにより、『太っていても栄養失調』ということが当たり前に発生します(書籍内に症例あり)。

質的な栄養失調は様々な体調不良を引き起こす元となります。逆に質的な栄養失調を解消することができれば、体調は改善に向かっていくということでした。

体内のエネルギー代謝の仕組み

第四章において、体内で起こっているエネルギー代謝について詳しく説明されています。エネルギー代謝は、ざっくばらんに『食べたものがエネルギーになる仕組み』のことです。

エネルギー代謝によって算出されるのがATPという分子で、この分子がエネルギーを放出していて、ATPを作る方法には嫌気性解糖好気性代謝があり・・・などと、なかなか理屈は複雑です。

幸い、書籍内で『込み入っているのでざっと読んでもらえれば大丈夫』と書かれていましたので、割愛に割愛を重ねて、理解できた分を箇条書きしてみます。

  • ATPは人にとってのエネルギー通貨。物を動かす電気のようなもの
  • エネルギー代謝はグルコース(ブドウ糖)と脂肪酸が材料になるパターンがある
  • グルコース(ブドウ糖)でのATP生成は効率がよくない。最低で2個、多くても36個しか作られない。糖質過多の場合は特に効率が下がってATP不足になってしまう。結果、エネルギーを得るために甘いものを摂取し続けるという悪循環に陥る
  • 脂肪酸でのATP生成は、一例として129個も作ることができ、グルコースと比べてはるかに効率がよい。いわゆる『糖質制限食』は、脂肪酸でのATP生成を目的としている
  • エネルギー代謝にはビタミンや鉄などのミネラルが使われるため、これらの栄養素を十分に摂取することが重要である。

以上を踏まえた結論は、『元気になりたいなら糖質控えて、タンパク質・ビタミン・ミネラルを満たせ』といったところでしょうか。

正直、エネルギー代謝の仕組みについて文章でさらっと説明するのは無理があります。本書内における図解入りの解説が一番わかりやすいですし、理解もしやすいので、ここではそちらに任せることにします。

体質の違いについて

ここは読み直すたびにショックを受ける箇所なのですが・・・。

エネルギー代謝の効率は体質により程度が異なるそうです。糖質(グルコース)を問題なくエネルギー化できる人もいるし、その逆もいます。もちろん、普通に食事をしていても長生きできる人は前者です。

そして、エネルギー効率の程度は遺伝子によって決まっています。お菓子を食べても平気な顔をしている人は、遺伝子的に糖質をエネルギー化するのがうまいということでしょうか。

生まれ持った体質を変えることはできません。エネルギー代謝が下手であることは、弱点であり身体的なリスクとなります。そして、弱点を補うためにはビタミンBを採り、糖質を減らすのが重要だといいます。

つまり、エネルギー代謝が下手な人が普通になるには、ビタミンBと糖質制限をしなければならないということです。上手な人は何もしなくて大丈夫なのに。

アルコールの得意不得意と同じで、仕方のないことだとは思いますが、私は弱い側の体質なので、努力しなければ普通にもなれないのかと思うとむなしく思います。

食品としてのヘム鉄とサプリメントとしてのヘム鉄

肉や魚介などの動物性食品に多く含まれているのがヘム鉄、ホウレンソウやプルーンなどの植物性食品に含まれるのが非ヘム鉄で、それぞれ吸収率は以下の通りです。

ヘム鉄の吸収率:10%~20%
非ヘム鉄の吸収率:1~5%

単純な比較ではヘム鉄が優れているように見えます。鉄の摂取を心がけるなら動物性のものを食べましょう、というのは正しい理屈です。

しかし本書では、サプリメントとしてのヘム鉄は効果が乏しいとされています。日本で鉄と言えばヘム鉄サプリなので、これは驚くべきことです。

幸い、ヘム鉄よりも安価で、吸収力がよく、体にも優しい、キレート鉄のサプリが販売されています。鉄を採る場合はこちらを選ぶべきです。

余談

ヘム鉄の効果について知りたい人は、藤川先生の公式ブログにて『ヘム鉄』と検索してみてください。藤川論初期(2015年あたり)の、ヘム鉄の効果を検証していた時期の症例がいくつか紹介されています。

全体を通して

『うつ・パニック~』は、藤川理論についての読んだ2冊目の書籍でした。基本的な内容がわかっていた時に読んだから大丈夫でしたが、この本が1冊目だったら、(気分や思考効率が落ちていたこともあり)難しくて投げていたかもしれません。

というか、読みはじめは疑ってかかっていました。つど挿入されている多くの症例で、納得せざるを得なくなった、というのが実際です。少なくとも、鉄+高タンパク質+低糖質を心がけるようにはなりました(その後、複数の本を読んだうえで藤川理論を実践しています)。

なお、第三章と第五章は主張の説得力を増すための章だと思っています。初見では目を通したほうがいいですが、繰り返し内容を確認したい場合は読み飛ばしても問題なさそうです。

以降の書籍との違いについて

2017年出版の『うつ・パニックは「鉄」不足が原因だった』と2020年現在では、大筋にぶれはないものの、微妙な表現に違いがあるように思います。そこで、個人で気づくことができた『ずれ』を羅列します。

栄養素の優先順位が異なる?

タイトルに『鉄』とあることもあり、本書では鉄が重視され、『鉄+タンパク質』不足という書き方が多いです。現在は『高タンパク+鉄+メガビタミン』が基本となり、タンパク質が最重要視されるようになりました。

プロテインに関する細かな記述がない

2020年では、タンパク質を効率よく摂取するためのホエイプロテインの日常的な摂取がほぼ必須となってます。しかし『うつ・パニック~』内では症例数の一部でプロテインの導入例があるだけで、さほど強調されていません。

サプリメントの細かな指定はない

『うつ・パニック~』内において、1日あたりのビタミン・ミネラルの最低必要量は示されていますが、サプリメントの具体例はキレート鉄サプリメントである『NOW アイアン 36mg』と『アドバンズドフェロケル 27g』が挙げられているだけで、推奨摂取量やその他ビタミン剤などの例はありませんでした。

以後出版される藤川先生の著書では、推奨するサプリメントの量やメーカーの具体名、摂取量の数値など事細かに挙げられています。

読者層のターゲットは主に女性?

『うつ・パニック~』には、どちらかというと女性を読者層として想定しているように思えます。後発の書籍で頻出する『中高年の単身男性が、炭水化物ばかり食べて鉄・タンパク不足を起こした例』も、本書には載っていません。

鉄の話がメインですので、月経で鉄を失いやすい女性を取り扱うのは自然な流れではあります。

身体面の不調に対する言及が少ない

上記の感想でも書きましたが、本書では『うつ・パニック』という言葉がタイトルにあることもあり、精神的な不調に対する症例や言及がほとんどで、身体的不調の改善についてはさらりと書かれているだけです。

一方、2020年に出版された書籍は『すべての不調は自分で治せる』というタイトルの通り、慢性疾患全体について取り扱っており、扱っている症例もより範囲が広がっています。

攻撃的な文章が少ない

藤川先生の公式ブログやツイッターでは、既存の医療に対する懐疑などが、わりと攻撃的な文体で少なからず出てきます。藤川先生自身も毒舌として気に入っているようです。

『うつ・パニック~』の場合、ごく初期に出た書籍であるせいか、全体的に柔らかな表現が使われていると感じます(それでも片りんはありますが)。

『うつ・パニック~』は読んだほうがいいか?

個人的には、『高タンパク+メガビタミン』の藤川理論を理解したいなら、本書のあとに発売された本を読むほうがよいと感じます。

後発の書籍を読んだうえで、改めて『うつ・パニック~』を読む理由を探すなら、藤川理論内の『鉄』について掘り下げて知りたいだとか、より多くの症例を読みたい、といったところでしょうか。

著者の藤川先生は常に知識を更新し続ける方です。それはつまり、著書も発売時期により内容が更新され、より優れたものになっているということでもあります。

そして、『うつ・パニックは「鉄」不足が原因だった』は2017年に書かれたものです。2020年となった今は、後発の本の補足として読むのをおすすめします。


『高タンパク+低糖質+鉄+メガビタミン』について復習するために、これまでに出版された藤川先生の書籍を読み直しています。ついで、自分なりにまとめてみようと書いたのが今回の記事です。だいたい理解できているとは思っていましたが、ATP回路の理屈など、思い違いをしていた箇所もあり、よい勉強になりました。

需要があるようには思えませんが、あくまでも自分の理解用に、他の書籍についても記事を作る予定でいます。